Q.骨癒合が良好であったとしても,疼痛が「局部の頑固な神経症状」として後遺障害12級13号に該当するのは,どのような場合でしょうか。
A.
骨折後に骨癒合し,それがたとえ良好だとしても疼痛が残ることがあります。
そのような場合には,疼痛が医学的に説明できる場合には,「局部の頑固な神経症状」として後遺障害12級13号に該当することになります。
1 京都地裁 平成28年6月14日判決(確定)では,自賠責14級9号の認定を変更して12級13号としました。
その理由付けは次のとおりです。
(1)大腿部における骨折部を整復してインプラント(髄内釘)を固定する手術を受け,骨折部の骨癒合は完成しました。
(2)骨癒合が完成した時点においても疼痛を訴えて,この疼痛の訴えは症状固定時まで一貫しているものです。
(3)大腿部の骨部には現在もインプラントが挿入された状態のままで,担当医師は,原疼痛の訴えを受けた際,大転子部にインプラント突出部位があるため疼痛の原因となっている旨診断し,これを除去する手術を検討したが年齢に照らし手術の負担が大きいことから除去手術は実施されなかったというものです。
(4)そうすると疼痛は,インプラントの突出部位の刺激によると説明できることから「局部の頑固な神経症状」として後遺障害12級13号に該当することになります。
インプラント(髄内釘)が除去されないままで,その突出部位が疼痛の原因であると説明できるからと言うことです。
一方で,「原告は髄内釘(プレート)が残っていること自体を問題視しているが,髄内釘の抜き去りにより再骨折の可能性が高くなるが,髄内釘の存在自体が直ちに労働能力の制限に結び付くとは解されない」(名古屋地裁 平成27年6月26日判決)との判決もあります。
すなわち,髄内釘存在自体だけでは,疼痛の原因とはならず,除去しない合理的な理由が必要と言うことになると思われます。
2 京都地裁 平成28年6月14日判決(確定)該当箇所
いわゆる赤い本2018年版p131
事件番号 平成27年(ワ)第2061号 損害賠償請求事件
<出典> 自保ジャーナル・第1983号
(平成29年2月9日掲載)
原告(女性:事故当時64歳,症状固定時65歳)は,本件事故により左大腿骨転子下骨折の傷害を負ったこと,骨折部を整復してインプラント(髄内釘)を固定する手術を受けたこと,骨折部の骨癒合は完成したこと,骨癒合が完成した時点においても原告は左大腿大転子部の疼痛を訴えていたこと,この疼痛の訴えは症状固定時まで一貫していること,原告の大腿部の骨部には現在もインプラントが挿入された状態のままであること,担当医師は,原告の前記大転子部の疼痛の訴えを受けた際,大転子部にインプラント突出部位があるため疼痛の原因となっている旨診断し,これを除去する手術を検討したこと,原告の年齢に照らし手術の負担が大きいことから除去手術は実施されなかったこと,症状固定時において前記疼痛が残存し,担当医師は,症状固定時においても大転子部にインプラント突出部位があることが疼痛の原因となっている旨診断していることが認められる。
そうすると,症状固定時の原告の左臀部(大転子部)の疼痛は,インプラントの突出部位の刺激によると説明できるところ,この症状は疼痛と整合する部位にインプラントが残置されていることに裏付けられ,かつ,担当医師は一貫してインプラント突出部位の刺激が疼痛の原因である旨診断していることからすれば,局部に頑固な神経症状を残すものとして後遺障害等級12級13号に当たり,労働能力を14%喪失したと認めるのが相当である。