Q.運転者が,視野に関する障害があるにもかかわらず,運転をして事故の加害者となった場合には,賠償責任において重過失となりますか。
A.
運転者が,病識があり医師からも運転を差し控えるよういわれていたにもかかわらず,実際に視野障害が事故発生の原因となった場合には,過失相殺において修正要素の重過失に該当することになります。
1 例えば,病気によって両眼共に求心性視野狭窄となっているとしたならば,視野が非常に狭く,自分で注意して見つめていたとしても,周辺以外は全く見えていないことになります。それにもかかわらず自動車運転をすることは非常に危険ですし,現実には運転は困難というべきです。
2 実際にも,信号の色の変化についても信号機を見て正確に判断するよりも,状況の変化を頼りに運転することになりかねません。
きちんと,眼科を受診しているならば,医師から運転を止められているのが実際かと思います。
それにもかかわらず,運転をして,信号の色の変化および他の車両や歩行者の発見が遅れて事故の加害者となった場合には,過失割合にどう影響するのか問題となります。
3 この点に関しては,
(1)求心性視野狭窄で中心が見えない(2)眼科医から運転を禁止されていた
事例において,「その運転の危険性の高さや危険性の認識等を踏まえると,酒酔い運転に匹敵するものとして取り扱う」として重過失として修正要素2割を加算するとした判決例があります(旭川地裁平成30年11月29日判決 判例時報2407号46頁)。
4 刑事犯としては類推適用の禁止から危険運転罪とはならないものの,民事的には重過失となるということです。視野欠損の原因となる病気にも種類があり,病識が欠如する場合もあり得ます。しかし,このような眼科医を受診して治療を受け,運転をやめるように注意を受けていた場合には,十分な危険運転の認識があったとして重過失とされたものです。