Q.常に後縦靱帯骨化症(opll)が事故前にあるとして素因減額をされるのですか。

[後縦靱帯骨化症(opll),後遺障害,素因減額,脊髄損傷,靱帯]

A.

 

結論:既に後縦靱帯骨化症(opll)の症状が事故前から出現していたり,その骨化の程度が年相応ではなく進んでいた場合は素因減額されます。その割合としては,2ないし3割と考えられます。しかし,年相応であることが説明できれば減額に対抗できると言えます。

1  後縦靱帯とは
(1)脊柱の構造
脊柱は,主に4つの部分に区分されています。
椎骨7個からなる頸椎,
同じく12個からなる胸椎,
5個からなる腰椎,
5個の仙骨が癒合して塊になって1つの骨を構成している仙骨及び3から3個の尾骨です。

(2)椎骨
脊柱を構成する単位となる骨を椎骨と言います。
椎骨は椎体と椎弓からなっています。
椎弓からは後方へ棘突起,左右へ横突起,上下へ関節突起が出ています。
椎体は体重を支持して,棘突起・横突起には運動筋がついています。そ
して,椎体と椎体との間は椎間板により連結されています。

(3)後縦靱帯
脊柱には,靱帯群が備わっていて,脊柱の支持性と可動範囲を規制しています。
椎体の前面にあるのが強靱な前縦靱帯であり,椎体の後面にあるのが後縦靱帯(posterior longitudinal ligament  PLL)です。

この様に,後縦靱帯は,椎体及び椎間板の後方を真ん中を縦走して椎間板後方部と共同して椎体間の過度の屈曲に耐えるように支えています。
頸椎部では幅が広いが,腰椎部では幅は狭く力学的強度も大きくありません。


2 後縦靱帯骨化症とは

(1)後縦靱帯骨化症
後縦靱帯が骨化したものを言います。

脊椎を連結する靱帯には前縦靱帯,後縦靱帯,黄色靱帯,棘間靱帯,棘上靱帯などがあり,
これらの骨化に起因する症状が発現した場合を脊柱靱帯骨化症と総称します

つまり,脊柱靱帯骨化症の中で,後縦靱帯が骨化したものが後縦靱帯骨化症(ossification of posterior longitudinal ligament  OPLL)です。

後縦靱帯は,脊柱管内に存在することから,その骨化が脊髄を直接に圧迫して四肢麻痺を生じさせる点で重要です。


(2)病因
後縦靱帯を含めた脊柱靱帯が骨化することは,通常の加齢に伴うありふれた現象とされています。
問題は,脊髄を圧迫するまでの骨化の増大です。

骨化を促進する因子としては,糖代謝異常,インシュリンに関するもの,カルシウム代謝異常等が挙げられていますが,遺伝的背景も注目されており,単一の原因ではなく,複数の因子の組み合わせによるものとも考えられており,今後の医学的研究課題とされています。


(3)症状 
主な症状は,脊髄の圧迫による障害,すなわち四肢・体幹の痺れ感や痛みなどの感覚障害,こわばりや筋力低下を伴う運動障害,および膀胱直腸障害です。多くは痙攣性の四肢麻痺や対麻痺を伴うとされています。誘因がなく上肢または下肢の痺れ,痛みを伴って発症して年単位の長いスパンで経過して,その間に多少良くなったりもしますが,徐々に進行する場合が多いとされています。まれに頸椎の安静保持が継続した場合には症状が悪化しないですむとされています。


(4)頸椎の後縦靱帯骨化症
頸椎に生じるものが頸椎後縦靱帯骨化症です。
この場合には,頸椎の安静保持が継続した場合には症状が悪化しないですむことから,症状らしいものがなかったり,多少の痛みでいたものが,比較的軽い外傷によって一変してしまうことがあります。

例えば転倒によって瞬時に脊髄損傷が出現して悪化してしまいます。本来ならば脊髄損傷を生じるはずのない小さな外力によって脊髄損傷を生じる疾患は他にも存在するのですが,後縦靱帯骨化症がその中でも圧倒的だと言われています


3 交通事故における(頸椎)後縦靱帯骨化症
まさに,交通事故により外力を受けて脊髄損傷へ至る場合があります。
その場合に,損害賠償の上で,どのように評価するのかが問題となります。まさしく素因としての減額がされるのか,されるとしてどの位の割合となるのかです。

4 最高裁判決の射程範囲
頸椎)後縦靱帯骨化症についての最高裁平成8年10月29日判決では,次のように判断しました。

たとえ本件交通事故前に右疾患に伴う症状が発現しておらず,右疾患が難病であり,右疾患に罹患するにつき被上告人(被害者)の責めに帰すべき事由がなく,本件交通事故により被上告人(被害者)が被った衝撃の程度が強く,損害拡大の素因を有しながら社会生活を営んでいる者が多いとしても,これらの事実により直ちに上告人らに損害の全部を賠償させるのが公平を失するときに当たらないとはいえず

損害の額を定めるに当たり右疾患を斟酌すべきものでないということはできない。
要するに,

事故前,(頸椎)後縦靱帯骨化症に既に罹患していた場合に,「罹患に責めに帰すべき事由がなく」「事故による衝撃の程度が強くとも」「損害拡大の素因を有しながら社会生活を営んでいる者が多いとしても」,素因としての減額をすべきだとしています。
そして,この最高裁判決により差し戻された大阪高裁は3割の素因減額を認めています。

5 その後の裁判例の流れ

上記の最高裁判決を受けて平成9年以降,ほとんどが素因減額を肯定して,2から3割を減額しており,中には5割の減額を認める裁判例さえもあります。他方では,否定する例もあります。

6 どのような場合に素因減額を否定できるか。
東京地裁平成16年2月26日判決(平成12年(ワ)第15518号 損害賠償請求事件<出典> 自動車保険ジャーナル・第1537号)は,
変性が通常の加齢に伴う程度を超えるものであったことを認めるに足りる証拠はない」として,素因減額を否定しています。

仮に後縦靱帯骨化があったとしても,その加齢性の変性が通常の加齢に伴う程度を超えるものではないこと,

つまり年相応であることが説明できれば,否定できることになります

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