Q.脊柱管狭窄により素因減額がされるのは,どのような場合ですか。また,どれだけ減額されますか。

[OPLL,後縦靱帯骨化症,素因減額,脊柱管狭窄,脊髄損傷,身体的特徴]

A.

脊柱管狭窄は,原則として疾患ではなく身体的特徴ですが,純然たる身体的特徴とも言い切れないものです。
脊柱管狭窄が,脊髄損傷,特に頚髄損傷となる可能性は高いと言えます。
その結果として後遺障害に認定されるとも言えますが,一方で素因減額の対象となる場合があります。
それは,交通事故前における脊柱管狭窄程度と,事故による衝撃の大きさとの相関関係で判断されると言えます。

1 脊柱管狭窄とは何ですか。(クリックすると回答)


脊柱管狭窄とは,脊柱管の口径が狭くなっていると言うことです。
脊柱管は脊髄を格納して保護する重要なスペースです。
その大きさは単純X線側面像では脊柱管前後径を測定して判断します。

日本人における第5第6頸椎高位での平均前後径は男性17㎜,女性16㎜とされています。
そして,14㎜以下で狭窄と判断されます。
さらに,11㎜以下では圧迫性の頸髄症を生ずる危険性が極めて大きいとされています。

脊柱管狭窄は,基本的には加齢等による変性によって生じるものです。
その点では,病態とも言えます。
そして,それまでは無症状であったものが,交通事故を契機に症状が発症してしまい,さらには後遺障害が残存する場合があります。
その際に,この脊柱管狭窄を素因として減額すべきか,あるいは減額するとしてどの程度となるのかが問題となります。
なお,脊柱管狭窄に関する裁判例として,素因減額を認めないものも相当数あります。

その中で,脊柱管前後径に関連して狭窄率(占拠率)が重要となります。

頚椎レントゲン写真.jpg

2 脊柱管狭窄率(占拠率)とは何ですか。(クリックすると回答)


脊柱管狭窄は,基本的には変性(加齢性)によるものです。
脊柱管内部に骨化巣が堆積して狭窄の状態となるのです。
すると,脊柱管前後径に対する骨化巣の厚みが狭窄の有無や程度を示すと言えます。

そこで,脊柱管前後径に対する骨化巣の厚みの割合を狭窄率(占拠率)と呼び,40%を超えると脊髄症が発生しやすいとされています。

そのため,狭窄率(占拠率)が40%を超えている場合には,最高裁判決(いわゆるOPLL判決)によれば事故前に症状が発現していなくとも,つまり無症状であったとしても素因減額の対象となるのです。
その点から,狭窄率(占拠率)は,問題となるのです。
狭窄率(占拠率)とは,脊柱管前後径(A)に対する靱帯骨化巣の厚さ(B)の百分率です。
つまり,B/A×100%です。

3 脊柱管狭窄は,素因減額の対象となるのでしょうか。(クリックすると回答)


(1)素因減額における「身体的特質」と「疾患」
最高裁平成8年10月29日判決(いわゆるOPLL(後縦靱帯骨化症)判決)では,「身体的特徴が疾患に当たらないときは,原則として損害賠償の額を定めるに当たり斟酌することはできないと解される」としています。

「身体的特徴」「疾患」というのが,素因減額を決定する重要な言葉と言えます。
つまり,「身体的特徴」は減額の対象とならず,「疾患」ならば対象となると言うことです。

なお,素因減額とは,損害の公平な分担のために賠償金額の決定に当たって,被害者側の事由を斟酌して民法第722条2項の規定(過失相殺)を類推して減額することです。

(2)脊柱管狭窄は「身体的特徴」・「疾患」のどちらなのか
脊柱管狭窄は,繰り返しになりますが変性によるものです。

他の変性(加齢性)のものについても当てはまりますが,次のように考えるべきです。
つまり,
事故前に疾患と言えるような状態であったことが認められない限りは原則として減額をしない。
年齢相応に通常見られる加齢性の変化ないし個体差の範囲内のものを理由に減額をすべきではない。
しかし,病名が付けられるような疾患に当たらない身体的特徴であっても疾患に比肩すべきものであり,慎重な行動を求められるような特段の事情が存在する場合には例外的に「身体的特徴」を素因減額として斟酌することができる。
「交通事故損害関係訴訟」(青林書院 佐久間邦夫,八木一洋)p209参照

つまり,「身体的特徴」・「疾患」を前提としながらも,素因減額の対象となる「身体的特徴」があるというものです。
「疾患」ではない(=病名は付いていない)ので「病態」ともいうべきものです。
そして,それは通常の年齢性変化や個体差では説明できない程度のものという意味があります。
すると,脊柱管狭窄に関しては狭窄率(占拠率)が重要な意味を持っていると言うべきです。
すなわち,一定割合に狭窄率(占拠率)が達していれば事故前に例え無症状であったとしても,医学的な疾病に当たるかだけでなく,その態様,程度などに照らし素因減額がされると言うことになります。

(3)脊柱管狭窄が発育性による場合
脊柱管狭窄は,発育性狭窄と判断される程度のものであっても,圧迫性の頸髄症が発症する確率が高いとされているものであって,個体差の範囲内に属するということはできず,だれにでも起こりうる通常の加齢による骨の変性とも異なるものである素因減額において考慮し得る身体的特徴とみるべきです(広島高裁 平成22年1月28日判決)。

4 脊柱管狭窄に関する裁判例の傾向はどうですか。(クリックすると回答)


傾向としては,脊柱管狭窄の程度と当該事故の衝撃との相関関係で判断しているものと思われます。
つまり,脊柱管狭窄率が50%であれば素因減額50%です(大阪地裁 平成13年10月17日判決)。
そして,事故前に現実に治療をしている場合には70%(津地裁熊野支部 平成16年6月10日判決)の減額を認めています。

すなわち,脊柱管狭窄と事故とが相まって症状の出現に至ったと評価される場合には,素因減額50%を基本とします。
しかし,脊柱管狭窄による症状が出現していた場合には,それを70%(上記津地裁熊野支部判決)とし,症状出現一歩前と評価される場合には,60%としているようです(大阪地裁 平成14年12月25日判決)。

だが,症状出現がなく,当該事故がなくとも出現したとは言い切れない場合には,30%としていると考えられます(東京地裁 平成13年4月24日判決等)。

さらに,脊柱管狭窄が素因としてあっても,事故の衝撃による症状の出現の影響が相当程度考えられる場合には,減額率を20%としていると思われます(東京地裁 平成19年12月20日判決等)。
そして,脊柱管狭窄の発症の可能性が痛みのレベルで極めて低い場合には10%まで下がるのです(東京地裁 平成17年7月27日判決)。

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脊柱管狭窄と後縦靱帯骨化症発症とは,関連します。次の記事を参照して下さい。

後縦靱帯骨化症(OPLL)(リンク)


脊髄損傷については,次の記事を参照して下さい。

脊髄損傷とは何ですか。(リンク)


頚髄損傷については,次の記事を参照して下さい。

頚(頸)髄損傷とは何ですか。(リンク)



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