Q.関節可動域を測定する際の関節運動及び後遺症(後遺障害)認定基準について説明して下さい。
関節の運動は,原則として直行する三平面である前額面,矢状面,水平面を基本とします。
主なものは屈曲と伸展,外転と内転,外旋と内旋,回外と回内があります。
後遺症(後遺障害)認定は,原則として,関節の運動の中の,自動運動/主要運動を
障害の残存した側(患側)と障害の残存していない側(健側)との可動域を比較して行います。
関節の運動は,原則として直交する三平面,つまり前額面,矢状面,水平面を基本面とする運動です。
前額面=一側から反対側の方向へ体を前後に分ける垂直面を言います。冠状面とも言います。
矢状(しじょう)面=矢状方向は体に正面から矢が当たったときに,矢が刺さる方向で,直立した姿勢では前後方向つまり上下左右を含む面(前額面)に直角な方向です。
水平面=身体を上下に分ける水平面です。横断面とも言います。
2 関節可動域測定の表示で使用する主な関節運動はどのようなものがありますか。 (クリックすると回答)
特に主要なもの
①屈曲と伸展
多くは矢状面の運動で,基本肢位にある隣接する二つの部位が近づく動きが屈曲,遠ざかる動きが伸展です。
但し,肩関節,頸部・体幹に関しては前方への動きが屈曲,後方への動きが伸展です。
また,手関節,足関節,手指,足指に関しては,手掌または足底への動きが屈曲,手背または足背への動きが伸展です。
②外転と内転
多くは前額面の運動で,体幹や手指の軸から遠ざかる動きが外転,近づく動きが内転です。
③外旋と内旋
肩関節及び股関節に関しては,上腕軸または大腿軸を中心として外側へ回旋する動きが外旋,内側に回旋する動きが内旋です。
④回外と回内
前腕に関して,前腕軸を中心に外側に回旋する動き,つまり手掌が上を向く動きが回外,内側に回旋する,つまり手掌が下を向く動きが回内です。
その他のもの
⑤水平屈曲と水平伸展
水平面の運動で肩関節を90度外転して前方への動きが水平屈曲で,後方への動きが水平伸展です。
⑥挙上と引き下げ(下制)
肩甲帯の前額面の運動で,上方への動きが挙上,下方への動きが引き下げ(下制)です。
⑦右側屈と左側屈
頸部,体幹の前額面の運動で,右方向への動きが右側屈,左方向への動きが左側屈です。
⑧右回旋と左回旋
頸部と胸腰部の右側に回旋する動きが右回旋,左側に回旋する動きが左回旋です。
⑨橈屈と尺屈
手関節の手掌面での運動で,橈側への動きが橈側屈,尺側への動きが尺屈です。
⑩母指の橈側外転と尺側外転
母指の手掌面での運動で,母指の基本軸から遠ざかる動き,つまり橈側への動きが橈側外転,母指の基本軸に近づく動き,つまり尺側への動きが尺側外転です。
⑪掌側外転と掌側内転
母指の手掌面に垂直な平面の運動で,母指の基本軸から遠ざかる動き,つまり手掌方向への動きが掌側外転,母指の基本軸に近づく動き,つまり背側への動きが掌側内転です。
⑫対立
母指の対立は,外転・屈曲・回旋の3要素が複合した運動です。母指で小指の先端または基部を触れる動きです。
⑬中指の橈側外転と尺側外転
中指の手掌面の運動で,中指の基本軸から橈側へ遠ざかる動きが橈側外転,尺側へ遠ざかる動きが尺側外転です。
⑭外がえしと内がえし
足部の運動で,足底が外側を向く動き,足部の回内・外転・背屈が複合した動きですが,これが外がえしです。
足底が内側を向く動き,足部の回外・内転・底屈の複合した動きですが,これが内がえしです。
3 自動運動と他動運動とは,どういうものですか。 (クリックすると回答)
他動運動とは,外的な力によって動かせる可動域のことであり,自動運動とは,被験者が自分の力で動かせる可動域のことです。
原則としては,他動運動による測定値(他動値)によります。
しかし,麻痺や,どうしても我慢ができない痛みによる可動域制限のように他動値によることが難しい場合には自動運動による測定値(自動値)によります。
この点に関しては,尺骨神経麻痺・橈骨神経麻痺等によるものが問題となります。
次の記事をご覧下さい。
尺骨神経麻痺
(リンク)
橈骨神経麻痺
(リンク)
正中神経麻痺
(リンク)
4 主要運動と参考運動とは,どういうものですか。 (クリックすると回答)
各関節で関節の動きは様々なものがありますが,それらの運動は主要運動と参考運動に分かれます。
肩関節 → 主要運動=屈曲/ 外転・内転 参考運動=伸展/外旋・内旋
ひじ関節 → 主要運動=屈曲・伸展 参考運度なし
手(腕)関節→ 主要運動=屈曲・伸展 参考運動=橈屈/尺屈
前腕 → 主要運度=回内・回外 参考運動なし
股関節 → 主要運度=屈曲・伸展/外転・内転 参考運動=外旋・内旋
膝関節 → 主要運度=屈曲・伸展 参考運動なし
足関節 → 主要運度=屈曲・伸展 参考運動なし
①等級認定は原則として主要運動により判断されます。
例外としては,主要運動の制限が等級表の対象から見てわずかに上回る場合には,参考運動の一つについて可動域角度が2分の1また4分の3以下に制限されていれば等級認定がされます。
そのわずかに上回る場合とは,各主要運動それぞれ5°,肩関節・手関節及び股関節の屈曲・伸展については10°を超える場合を言います。
②主要運動が複数あっても,屈曲と伸展のように同一平面上の運動の場合には合計値で比較します。
但し,肩関節の場合は,上肢でもひじ関節・手関節とは異なり,伸展は参考運動なので,それぞれの可動域制限を独立して評価します。
5 後遺障害認定の原則は,どうなっていますか。 (クリックすると回答)
上肢・下肢のような左右がある部位の関節可動域の機能制限の認定は,障害の残存した側(患側)と障害の残存していない側(健側)との可動域を比較して行います。
しかし,事故前から他方の側に何らかの障害が既にある場合には,「健側」が存在しないために参考可能域角度との比較で判断されます。
6 関節の機能障害とは,どういうことですか。 (クリックすると回答)
上肢・下肢それぞれの3大関節の動きの障害です。
3大関節とは,上肢(腕)=肩・ひじ・手首,上肢(足)=股・膝・足首です。
その程度と障害が両上肢あるいは両下肢に生じたのか,あるいは一方の上肢あるいは下肢に生じたかによって等級が認定されます。
なお,3大関節ではありませんが,上肢前腕の回外・回内運動が制限されている場合も関節の機能障害に準じて評価されています。
7 関節の機能障害の認定基準は,どうなっていますか。 (クリックすると回答)
両(左右とも)上肢全廃 → 1級
両(左右とも)下肢全廃 → 1級
上肢3大関節すべて強直(☆1)+手指全部用廃=一上肢全廃→ 5級
上腕神経叢の完全麻痺
(リンク) =一上肢全廃 → 5級
下肢の三大関節のすべて強直 =一下肢全廃 → 5級
強直あるいは完全弛緩性麻痺かそれに近いもの(☆2)=一関節用廃(☆3)→ 8級
置換術で可動域2分の1以下 =一関節用廃 → 8級
可動域2分の1以下 =一関節著しい機能障害(☆4)→ 10級
置換術で可動域2分の1を超える =一関節著しい機能障害→ 10級
可動域4分の3以下 =一関節機能障害(☆4)→ 12級
☆1 強直
(リンク)=関節が全く可動しないか。またはこれに近い状態,つまり健側の可動域の10%程度以下(角度5°単位で切り上げて計算)に制限されたもの
☆2 完全弛緩性麻痺に近いもの=他動では可動するが,自動では健側の可動域の10%程度以下(角度5°単位で切り上げて計算)に制限されたもの
☆3 関節の用廃=主要運動のすべてが強直したもの
☆4 著しい機能障害あるいは機能障害は,主要運動のいずれか一方が制限されていれば良い。
☆5 肩関節の場合には,肩甲上腕関節が癒合して骨性強直していることがレントゲン写真で確認できれば強直となる。