Q.RSDの認定基準には、どのようなものがありますか。裁判所ではどのように考えていますか。
1 世界疼痛学会診断基準
以下の通りになっています。
①外傷などの侵害刺激やギプス固定などの動かさない時期があったこと(CRPS・タイプⅠ),
または,四肢の比較的大きな神経損傷があったこと(CRPS・タイプⅡ),
②原因となる刺激から判断して不釣り合いなほど強い持続痛,アロディニアあるいは疼痛過敏現象があること,
③病期のいずれかの時期において疼痛部位に浮腫,皮膚血流の変化,あるいは発汗の異常のいずれかがあること,
④もし,上記の症状が他の理由で説明ができる場合には,この疾患名は当てはまらない。
②から④の診断基準が必須であるとしています。
そして,CRPSの診断は上記診断基準を満たすかどうかによってなされるものとされています。
2 ギボンズGibbonsらのRSD診断基準
①触覚過敏・痛覚過敏,②灼熱痛,③浮腫,④皮膚色調・体毛の変化,⑤発汗異常,⑥皮膚温変化,⑦X線所見での骨脱灰像,⑧血管運動障害・発汗機能障害の定量的検査,⑨骨シンチグラフィー,⑩交感神経ブロックの効果が挙げられ,
各項目ごとに該当する場合を1点,不明瞭だがありそうな場合を0.5点,該当しない場合を0点としてスコアリングし,5点以上をprobableRSD(RSDの可能性が高い),3点から4.5点をpossibleRSD(RSDの可能性あり),3点未満をRSDでないとする。
3 労働者災害補償保険法(「労災保険法」)に基づく傷害補償制度
RSDについて,主要な末梢神経の損傷という明瞭な診断根拠がないこと,疼痛自体の客観的な尺度がないことから,障害認定実務上,RSDと診断するに足る客観的な所見を必要とし,慢性期に至って初めて障害認定することを踏まえると,
疼痛のほか,
少なくとも①関節拘縮,②骨の萎縮,③皮膚の変化(皮膚温の変化,皮膚の萎縮)という慢性期の主要な三つのいずれの症状も健側と比較して明らかに認められることを要するとされており,
自賠責保険における後遺障害等級認定においても,ほぼ同様の基準が用いられています。
4 コメント
RSDは疼痛を主な症状とするものの,疼痛を裏付ける客観的な医学的根拠が明らかでなく,これのみでRSDと認定することは相当ではなく,
他方,RSDの発生機序,病態等について,未だ現在の医学界においてコンセンサスを得た見解が確立しているとは言い難い状況にあるものです。
すると、労災保険又は自賠責保険における診断基準により,一義的に認定することも相当ではないというべきです。
したがって,ギボンズGibbonsらの診断基準や労災保険又は自賠責保険における診断基準等を参考に,
症状の経過等を総合的に評価してRSDの該当性を判断すべきです。
なお,ギボンズGibbonsらの診断基準を満たす場合には、世界疼痛学会の基準も満たすことも多く齟齬は生じないとも言われています。
その際,客観的な医証に基づいて認定することが可能な骨萎縮,筋萎縮,皮膚変化等を重視すべきということになります。
骨萎縮については,RSDの診断において要件としていない見解もありますが,
骨萎縮は長期間動かさないでいると生じるものであることから(廃用性骨萎縮),
RSDの認定においてその有無を考慮すべきです(東京地裁 平成19年11月7日判決<出典> 交民集40巻6号1479頁)。
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RSDの症状経過
(リンク)