死亡の逸失利益及び慰謝料

2.死亡逸失利益をめぐる問題点

(1)年少女子の基礎収入について

後遺障害の逸失利益の際の申し上げたことがそのまま当てはまります。つまり,女子年少者について基礎収入として女子平均賃金を用いるのか,それとも男女計平均賃金を用いるのかが問題とされています。先ほどの三庁共同提言においても,「幼児・生徒・学生の場合は,賃金センサスの全年齢平均賃金または学歴別平均賃金による」とはしましたが,そこでいう全年齢平均賃金が男女別を意味するのか,全労働者を意味するのかを明らかにはしませんでした。この問題は,男女格差の存在を解消する方向で考えるのか,それともその現実を前提にした方向で考えるのかという価値観が横たわっています。

年少女子の死亡逸失利益については,三庁共同宣言の趣旨にのっとり,全年齢労働者つまり全年齢男女計平均賃金を基礎収入として用いるとした上で,生活費控除率を45%として調整を図る裁判例が多くなっています。すなわち,今までは女子平均賃金に女性の生活費控除率30%を用いて女子平均賃金×(1-0.3)としていたのを全年齢労働者平均賃金×(1-0.45)とする傾向にあります。なお,年少女子の範囲についてはおおむね中学生位までとされていますが,高校生が含まれる場合もあります。

(2)年5%を前提とする中間利息控除の妥当性について

後遺障害の逸失利益と同じく中間利息控除の問題があります。年5%という割合が,現実の運用利益を前提とすると,それとのギャップが甚だしいとも言えます。つまり,将来の収入分を現時点でもらっても,それが年5%という高利率で運用できると考えるのはあまりにも現実離れをしているのではないかという疑問があるのは当然です。平成時代に入り,平成10年前後からの低成長経済の超低金利時代には,この点の批判が相次いで高裁を含めた下級審では2ないし4%の利息に下げて現実とのギャップを埋めようとした時期がありました。しかし,平成17年6月14日最高裁判決により「中間利息は,年5%の割合で控除する。」と明言されて,この論争には終止符が打たれた感があります。しかし,依然として超低金利が続き,またそれに追い打ちをかけて低賃金あるいは賃金上昇が望めない時代に入っていることを考えると,同様の問題が同じ形かあるいは形を変えて議論が再燃する余地があると言えます。

(3)中間利息控除におけるライプニッツ係数(式)とホフマン係数(式)について

中間利息控除における方式としては,複利によるライプニッツ係数(式)と単利によるホフマン係数(式)とがあります。複利によるライプニッツ係数(式)による方が,労働能力喪失期間=就労可能年数が長期になればなるほどホフマン係数(式)より数字が低くなります。ということは,ライプニッツ係数(式)による方が金額としての逸失利益が少なくなると言うことです。この点について,最高裁は事案によるとしていずれの方式によっても良いとしております。しかし,東京地裁は,ライプニッツ係数(式)によることで固まっており,先ほどの三庁共同提言によれば大阪地裁,名古屋地裁も同様の方式によるとされているので,おおむね全国的にライプニッツ係数(式)によるものが定着しつつあると言えます。

(4)生活費控除率の変動について

損害賠償を考える上で,いくつかのフィクションに立っていることを認めなければなりません。死亡逸失利益についても,死亡時点での被害者の家族構成を前提に考えて,仮に独身者であれば生存していたならばあり得た結婚,出産による家族構成の変化を無視して算出をしています。つまり,原則としては交通事故後の事情の変更を認めないという前提に立っているのです。しかし,男性独身者であれば50%の生活費控除率ですが,彼が25歳で死亡したという場合には,30歳までに結婚をした蓋然性が高いはずです。そうなれば逸失利益の計算において全部を50%の生活費控除率でするのではなしに30歳からは,生活費控除率を40%に下げることが妥当です。あるいは,独身男性で35歳で死亡した場合に,両親が65歳であったとすれば,5年後の70歳になった時点で彼は両親を独身のまま扶養していた蓋然性が高いと言えます。そうであれば,彼が40歳となった時点からは被扶養者が2人として生活費控除率を30%に下げることが妥当と言えます。実際に,そのような柔軟な裁判例も出ております。

交通事故における後遺障害は、その賠償についても深い悩みを抱えることになります。埼玉の弁護士、むさしの森法律事務所にご相談ください。

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