後遺障害の等級

5.いわゆるむち打ち症(頚椎捻挫,外傷性頚部症候群)について

(1)いわゆるむち打ち症

追突されると重い頭は慣性のために体の動きよりも遅れてしまうため,頭や首は過伸展して,その後に過屈曲が起こります。その結果,首(頸部)の筋肉,靱帯,椎間板,血管,神経などの組織が損傷します。この様に追突により首(頸椎)が,あたかも鞭のようにしなる運動をしてそのために生じる損傷であるために一般にむち打ち症と言われています。但し,むち打ち症はその発生のメカニズムを説明する言葉であるために,診断名としては現在では「頸椎捻挫」「頸部捻挫」「頸部挫傷「外傷性頸部症候群」等とされています。しかし,診断名としての呼び方は異なっても実態は同じです。

(2)むち打ち症の分類

様々な分類がなされていますが,主要なものを挙げておきます。

ア 頸椎捻挫型

頸椎の椎骨間にある関節の関節包や椎骨の周囲の靱帯が損傷されることにより症状が出現するものです。主な症状は,頭痛・頸部痛・頸部の運動制限です。

イ 神経根症型

神経根に障害がおこることにより症状が出現するものです。椎間板に変性(加齢)がある場合には椎間板ヘルニアや骨棘が神経根を傷つけたり,神経根を取り巻く組織を損傷させて症状を出現させるのです。主な症状は,頸だけではなく肩から腕にかけての放散痛,知覚障害,しびれ,脱力などがあります。

ウ バレリュー症型

めまい,耳鳴り,目のちらつき,かすみ,眼精疲労,頭が重い,吐き気がする,といった自律神経症状が出現するものです。交感神経節が刺激を受けたままでいるためにこの様な症状が出現するとされています。

(3)自賠責保険における等級認定

むち打ち症については,多くは14級9号「局部に神経症状を残すもの」あるいは12級13号「局部に頑固な神経症状を残すもの」とされます。さらには,いずれにも該当しない非該当の事例も数多くあります。

14級9号「局部に神経症状を残すもの」とは,「労働には通常差し支えないが,医学的に説明可能な神経系統または精神の障害にかかる所見があると認められるもの」です。
「医学的に説明が可能」であるとは,現在の症状が治療経過や所見からみて相応する交通事故によるものと説明が可能であると言うことです。

12級13号「局部に頑固な神経症状を残すもの」とは,「労働には通常差し支えないが,医学的に証明しうる神経系統の機能または精神の障害を残すもの」です。
「医学的に証明しうる」とは,相応の交通事故により身体の異常が生じて,医学的にみて,その異常により現在の障害が発生していると判断ができると言うことです。

そのために,レントゲン写真,MRI,CT等の画像所見,腱深部反射,病的反射,徒手筋力テスト等の様々な検査及び神経学的所見の推移を示すものが必要となります。
自覚症状だけで,治療経過や所見からみて相応する交通事故によるものと説明ができなかったり,治療に中断が一定期間あったりすると,14級9号にも該当しないで非該当となるおそれがあります。

むち打ち症の自賠責後遺障害等級認定で,図らずも14級9号であったり,非該当であったりしたため,異議申し立てをしたいという場合には,以上に照らして資料の追加をすること等で変更の可能性があるのか十分に慎重に検討する必要があります。 なお,既に申し上げたむち打ち症の分類と後遺障害等級の関連について触れます。

ア 頸椎捻挫型

この場合は,症状が残存せずに後遺障害が非該当となることが多いと言えます。症状が残存していても14級9号である場合がほとんどと言えます。

イ 神経根症型

この場合は,神経根が損傷していることから諸検査等から身体の異常から障害が発生していることが医学的に証明できれば12級13号の該当性が認められると言えます。

ウ バレリュー症型

この場合も,諸検査等から身体の異常から障害が発生していることが医学的に証明できれば12級13号の該当性が認められると言えます。しかし,診断名にバレリュー症と書かれているからと言って,必ずしも12級13号の該当性が認められるとは限りません。自覚症状だけをとらえて診断名が書かれていて,諸検査による身体の異常との整合性が裏付けられていないことも多くあるからです。

(4)裁判所における等級認定

既に申し上げたとおり,後遺障害の認定は,自賠責調査事務所が行うものですが,その認定結果は,本来は法的効果はないのですが,その沿革と膨大な情報量の蓄積による権威から裁判所さえも実際上拘束されるからです。
従って,裁判所は,自賠責認定等級をそのまま採用することが事実上多く,特にむち打ち症の場合にはその傾向が強いと言えます。従って,異議申し立てをせずに,いきなり裁判所で自賠責で認定されたよりも高い等級を主張していくことも理屈上は可能です。
そして,主張立証が成功して裁判所で自賠責による後遺障害認定等級が変更されることもあります。

但し,その場合には医学的立証にかなりのエネルギーを割かれることとなります。従って,まずは異議申し立てをすることがよいと考えます。しかし,その場合には,漫然と異議申立書を提出するだけでは結論は目に見えています。むしろ,この段階で被害者請求に切りかえて,新しい資料,特にお医者様の診断書・意見書・画像等をきちんと補充して行っていくことを検討すべきでしょう。

(5)労働能力喪失期間

むち打ち症に関して,逸失利益を決定づける労働能力喪失期間について14級9号では5年以下,12級13号では10年以下と,限定的に裁判実務でも考えていると言われていました。さらに保険実務では現在も損害保険会社(共済)によってはさらにそれよりも短い期間を提案することも多くあります。後遺障害とは本来の意味では,永久的な障害であり就労可能な期間,つまり働ける間は,労働能力喪失期間として認めることが理論的であると思います。しかし,むち打ち症については,裁判実務や保険実務において他の後遺障害とは質的に性質の異なるものと考えている節があります。その点を説明するのに,「症状に馴れてきて労働能力の回復には2,3年あれば足りる。」「社会生活に適応できる見込みがある。」「症状は2,3年あれば改善する。」とされることがあり,むち打ち症による後遺障害を永久的なものではなく一時的なものと考えていると思われます。

「症状に馴れてきて労働能力の回復には2,3年あれば足りる。」「社会生活に適応できる見込みがある。」というのは,後遺障害を受けた被害者自身の努力によるもので,それを理由に賠償額を減額されるのはおかしいと言えます。
さらに「症状は2,3年あれば改善する。」と言うのでは,後遺障害と認定すること,あるいは後遺障害という概念と矛盾するとも言えます。

これらの点から,むち打ち症に関して,逸失利益を決定づける労働能力喪失期間について短縮する今までの裁判実務及び保険実務については批判が起こってきており,この点については今後は流動的であると言えます。

(6)むち打ち症に対する私たちの考え方

むち打ち症は,治療費の打ち切り,健康保険への切り替え,症状固定時期,休業補償の打ち切り等をめぐって治療段階においても紛争となりやすいものと言えます。痛みあるいは自律神経失調等による苦痛が他から分かりにくいことと相まって家族の理解や協力も得られないことも多くあります。そして,後遺障害が認定されたとしても,多くは14級9号,まれに12級13号であり,非該当となる事例も多くあります。

そのために,むち打ち症の被害事例について弁護士の中には,業務としての取り扱いから除いている場合さえもあります。しかし,私たちは,むち打ち症の被害も重度後遺障害の事例と等しく適正な賠償の対象として十分な対応をする所存です。但し,治療経過や症状の推移から考えて,あなたが希望される通りの解決が困難であると思われる場合には率直な御意見を差し上げることとなりますが,それは,あなたのためを思うから故であり,御容赦をお願いします。

交通事故における後遺障害は、その賠償についても深い悩みを抱えることになります。埼玉の弁護士、むさしの森法律事務所にご相談ください。

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